ほのかに暖かさを感じさせる日差しの中、いつものように本堂に手を合わせ我家の墓所へと向かう。
今日は少し念入りに掃除をしようと思い雑巾の他に小さなブラシを持ってきた。
「大塚家之墓」と刻まれた文字の中の汚れをそのブラシで落としていくと文字がよりはっきりと読めるようになり、いつも以上に晴れやかな気持ちで手を合わせることが出来た。
皆様がお墓を建てるときに悩まれる事として前回取り上げた石の種類の他に、お墓に刻む文字のことがあります。今回はその文字についてのお話をさせて頂きます。
一言に石塔の文字と言いましても幾つか有りまして、墓石の正面の文字の他に、戒名、施主名、建立年月、家紋と一つの墓石にも最低限これだけの文字を刻みます。その他詩や歌を刻まれることもありますし、現在では写真をそのまま表現出来るような刻み方も有ります。
ここではまず、正面の文字に付いてのお話をさせて頂きます。
仏式の場合、墓石は仏様として拝み供養される対象となるべきものですから本来正面にはお題目や仏教の文字、梵字(ぼんじ)等を刻むものとされてきました。また、昔一代一基として一代(夫婦)で一基の石塔を建てる事が一般的であった時期はその夫婦二名分の戒名を正面に彫っておりました。しかし現在では墓地の敷地も大きく取ることが出来なくなり一代一基ではなく、墓所の中心に一基の石塔を建て、すべての方をその中に納める「合祀墓」形式になりましてから、「○○家之墓」と家名を刻むことが一般的になりました。
次に宗派による正面の字彫の違いが有ります。まず、真言宗では○○家之墓の上に梵字の「
」を彫ることが一般的です。これは「ア」と読みまして真言宗の本尊の大日如来様を表しており、その家やご先祖様が大日如来様に守られていることを表します。また、浄土宗では阿弥陀様がご本尊なので「南無阿弥陀仏」や阿弥陀様を表す梵字「
」(キリークと読みます)を刻んでその下に○○家之墓と刻みます。その他天台宗は「
」やお寺様によっては「
」を刻むところも有ります。禅宗(曹洞宗、臨済宗)では上部に円相「○」を刻むとされていますが実際にはあまり見かけることは少ないです。浄土真宗では「南無阿弥陀仏」と彫ります。日蓮宗では上部に「妙法」や「南無妙法蓮華経」と彫ります。私共でお付き合いをさせて頂いているお寺様で、同じ宗派でも違った刻み方の指示を頂く事がありますので、梵字や経文を刻むときは、そのお寺様に相談するのが良いでしょう。
また、よく相談を受ける事例として、後継ぎが女性しかいない場合に「○○家之墓」と家名を彫ってしまって良いものか、嫁いでしまって姓が変わってしまったらどうするのかと言われる事があります。その場合は「先祖代々之墓」とするか、お題目を刻むことをお薦めしていますが、どうしても両家の名前を刻みたいという場合には両家の名前を上に並べて彫り下に「之墓」とすることも有ります。その場合、責任の所在が曖昧になってしまう事も考えられますので、お寺様に相談してから決めたほうが良いでしょう。
最近ではお寺様の中でも洋型やデザイン墓を建てられる方が増えてきておりまして、和型と違って正面の文字も従来の形式でなく自由な発想で考えられる方も多くなってきております。そのことに関しましては次号以降でまた取り上げさせて頂きます。
合掌
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